マリコの食べ物日記

読書と映画の食べ物日記です。

山口瞳『新東京百景』と麻布十番

 

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緊急事態宣言が明け、先日、久々に仕事の仲間と食事会を行いました。
会の主役が直前まで東麻布で仕事だったので、場所は麻布十番です。

麻布は自分にはあまり縁のない町です。
しかし、ずいぶん前に一度だけ連れて行ってもらったある店を長年探しており、その店を突き止めてもう一度行くために、麻布に詳しくなりたいと思っています。

それは大学時代の友人が連れて行ってくれた和食の店でした。
友人は日本で一番賢い人が行く大学を卒業し、日本で一番有名な広告代理店に就職し、華々しく活躍して、美人で聡明で性格のいい奥さんと結婚し、私には誰よりも陽のあたる道を歩いているように見えていました。それがその友人にとてもふさわしい姿で、さすがだなと思っていました。

しばらく会う機会がなかったのが、久々に一緒にご飯を食べることになり、友人が私の職場の近くまでタクシーで迎えに来てくれ、連れて行ってくれたのが、麻布十番和食屋さんでした。白木のカウンターがあって、季節の食材の天ぷら、刺身、焼き魚、何もかもが美味しい店でした。
小さな出版社で働いていた私は、泊まり込みの仕事明けの時くらいしかタクシーなぞに乗る機会はなく、狸穴町あたりなんて行ったこともなく、それが日常のように振る舞う友人の風情に感心したものでした。

その晩秋の食事から何度かメールを交換し、年が明けて正月の挨拶をメールで交わし、また飲みましょうと言っていた矢先、早春に友人は自死してしまいました。
何があったのか私には今でもよくわかりません。
後から思い起こせば、初恋の人や好きだった先生に会いに行っているという話をしていたことが、取り返しのつかない嫌な予感として思い出されます。男子校から男子だらけの大学に入った友人にとって、私は数少ない女性の友人であると言われたことがありましたが、私に会って何を思ったのか何も思わなかったのか、何か言いたかったのか特に言いたいことはなかったのか私にはわかりません。

友人が連れて行ってくれたその店にもう一度訪れても、何かがわかるわけでもないし、都会の人気の町なだけにその店はもう残っていない可能性が高いでしょう。
それでも麻布を訪れる機会が巡ってくる度に、私には知り得なかった友人の人生の欠片みたいものを探してしまうのでした。

学生時代の私と友人がよく食事をしていたのは、駒場東大前の満留賀、下北沢の庄屋や王将です。満留賀も2020年に閉業してしまったようです。

麻布については、山口瞳のエッセイ『新東京百景』(新潮文庫)を読むと、町の歴史がわかって面白いです。山口瞳は大正15(1926)年生まれ、南麻布の東町小学校、旧制麻布中学を卒業しています。

僕は、小学校の三年生から、早稲田大学の一年生のときまで南麻布で暮した。麻布十番界隈と六本木は遊び場であり散歩道であった。


銀座は親しみのある優しい町であり麻布十番は怖い町であった、麻布日活は不良少年の巣窟で一人では入れなかった、花柳界としては銀座や築地、新橋、赤坂は一流で、白山、大塚、麻布十番は三流、という戦前の東京に生まれた人の実感も面白いです。

お母さんの遺言に「通夜はおつな寿司のノリタマでいい」と書いているから、この店の前を素通りできない、と書いているのも笑ってしまいます。

このお母さんこそ、その結婚式の写真も結婚前の写真もないことに疑問を持った山口瞳が、秘められたルーツを辿り小説『血族』を書くことになる、その人物です。


私が行ったのはVia  Brianzaというイタリアンの店でした。美味しかったです。

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広島の大黒神島という無人島の生牡蠣

 

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青海苔のゼッポリーニ

 

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鮭のルイベのカルパッチョ。レモンのエスプーマ

 

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魚介のビスクスープに魚介の揚げ天?みたいなもの

 

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椎茸のマリネ、牛モツの煮込み、サツマイモのピュレ

 

 

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トリュフと卵のグラタン

 

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自家製カラスミのパスタ

 

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牛肉のラグーのパスタ

 

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口直しのディルのソルベ

 

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黒毛和牛もも肉のグリル

 

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濃厚プリン


食事の後、東京タワーが見えるバブリーなカフェでお茶して解散しました。

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チャージ料がめちゃ高いカフェでした